地震波を視覚化するモデル実験



          岡 久 保 幸  高 橋 文 明  松 田 義 章  志 佐 彰 彦



  (おかひさ やすゆき     幕別町立幕別中学校教諭 平成8年度長期研修員)

  (たかはし ふみあき    北海道浦幌高等学校教頭 元地学研究室長)

  (まつだ  よしあき    地学研究室長)

  (しさ    あきひこ    地学研究室研究員)





 ここ数年大規模な地震が頻発し、北海道でも東方沖地震、南西沖地震などの記憶も新しく、

地震に対する生徒の関心も高い。しかし授業で、地震そのものを扱うとき、地震波の性質に

より、初期微動と主要動が起こることを説明するとき、適当なモデルがなかった。そこで、

地震波の性質を視覚的に捉えることができるモデル実験について検討してみた。



キーワード] 中学校 地震波 視覚化 モデル実験 



はじめに

 地震の授業での扱いについて、中学校指導書理科編では、「地震についてその揺れの大きさ

や伝わり方の規則性に気付くこと」が求められており、その扱いとして、「初期微動継続時間

と震源までの距離との関係も取り上げるが、その公式は取り上げないこと」となっている。

  地震波は、p波(縦波)とs波(よこ波)の複合波である。p波は波の進行方向に対して

同方向に振動するため速度が速く、初期微動を起こし、s波は、波の振動方向に対して90度の

振動方向を持っているため、速度は遅く、そのかわり主要動となって大きくゆれる。

             



                              図1 地震波の記録



 教科書では、地震計の記録から、地震波の速度の違いと、ゆれ方について学習するように

なっている。しかし、2次情報である地震計の記録から地震波の伝わり方をイメージするこ

とは容易ではない。そこで、地震波の伝わり方を視覚的にとらえることを目指してこのモデル

実験を開発した。なお、実験にかかる材料費を押さえるため、極力安価なものを使用して作製

できることもねらっている。



1 地震波の伝わり方を視覚的にとらえる実験方法の工夫

(1) 準備

 おもり20g、画鋲、たこ糸、輪ゴム、角材、 竹ひご、鉄製スタンド、板

(2) 方法

ア 左の図2のように釣り用のおもり(20g)に、たこ糸30cmをしばりつける。(およそ振り子

  の糸の長さが20cmになる。)

イ おもりを角材に20cm間隔で10個〜20個画鋲でつり下げて固定する。

ウ 輪ゴムを3本結び、おもりを図2のようにつなげていく。



                       



                      図2 おもり  



エ 竹ひご2本を10cm×10cmの板(図3)に固定し、その端をスタンドに固定する。

オ おもりと板を適当な長さのたこ糸で結ぶ。

カ おもりを斜め前方に持ち上げ、手を離し、振動を与える。

エ 竹ひご2本を10cm×10cmの板(図3)に固定し、その端をスタンドに固定する。

オ おもりと板を適当な長さのたこ糸で結ぶ。

カ おもりを斜め前方に持ち上げ、手を離し、振動を与える。



 



                   図3 実験装置



      



                    図4 板



(3) 結果と考察

   この実験では、図4の板を地面に、ゴムの動きを地震波にたとえている。その結果、

  振り子を振動させると振り子の振動が徐々に伝わり、まず板が上下に振動し、その後

  板が左右に振動する様子が見られる。角材を斜めに設置したのは、地震が地中から地

  表に伝わる様子を表したものである。

 おもりの振動が伝わっていく速度を計測し、それを実際の地震波と比べると、表1の

  ようになる。

               

      表1 地震波と実験データとの比較

            

p  波
s 波
速  度  比
地 震 波
8km/秒
5km/秒
1.60倍
実験データ
1.38m/秒
0.39m/秒
3.51倍


表からわかるように、この実験装置では、実際の地震波よりもs波(横波)の速度遅れが

大きくなっている。しかし、2mから4mくらいの単位で行うこの実験では、到達速度の

違いがより観察しやすい。



3 指導上の留意点

    この実験では観察する観点が二つある。一つは、振り子を伝わっていく振動の様子で

  ある。もう一つは、地表面を模した板の振動である。実験を何度か行い、その二点につ

  いて観察させることが必要である。

   発展として振り子の個数を2倍、3倍にし、p波の到達時間と、s波の到達時間との

  差から、初期微動継続時間を求め、その時間と、震源までの距離について考えさせるこ

  ともできる。また、振動を与える振り子の位置を変え、板の振動の大きさと関連づけて

  地震波の減衰について考えさせることもできる。

   なお、この実験装置をそのまま使い、第1学年の「音と光」の単元で、「音」の縦波

  としての性質を見せることもできる。

   実験装置の作製費用については、おもりが1個20円ほどなので、2mの長さの実験装置

  で、角材も含めて 600円ほどで作製できる。なお、斜めにすることにこだわらなければ、

  実験机に画鋲で直接留めることでも実験でき、この場合おもりの費用だけなので、200円で

  作製できる。



おわりに

   言葉や地震計の記録だけでは伝わりづらかった地震波の性質について、視覚的に理解

  しやすいモデルを作製できた。

   今後さらに、地学的な概念である広大なスケールを伝える方策を継続して検討したい。



  (おかひさ やすゆき     幕別町立幕別中学校教諭 平成8年度長期研修員)

  (たかはし ふみあき    北海道浦幌高等学校教頭  元地学研究室長)

  (まつだ  よしあき    地学研究室長)

  (しさ    あきひこ    地学研究室研究員)
        研究紀要のページへ戻る