「大地の変化」での指導
札幌市立幌東中学校 高橋伸充教諭
■ 教科書で扱う内容
| ・風化 ・侵食 ・流水のはたらき ・川によってつくられた地形 ・地層累重の法則 ・地層のできかた ・地層の観察方法 ・地層の広がり ・堆積岩のつくりや特徴 ・示相化石、示準化石 ・火山噴出物 ・火山活動 ・火山の形態 ・火山岩と深成岩のつくりと特徴 ・火成岩の種類 ・地震の特徴 ・地震災害 | |
≪「変わりゆく大地」で削除された内容≫ | ・隆起、沈降に伴う地形 ・不整合 ・断層 ・褶曲 ・造山運動 など | |
- 地学領域の地質に関する単元を指導する際に、困難を強く感じる学習事項は「時間的なスケール」をいかに身につけさせるかということである。新学習指導要領で削除される内容には、この「時間的なスケール」に密接に関連する部分が多い。精選された指導内容をもとに「時間的なスケール」を意識させる視点を重視し、長い地質時代をできるだけ生徒にイメージさせる指導を心がけることが大切である。
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■ 学習指導計画例(25時間扱い)題材・目標 | 学習内容・活動等 ( )時数 | 備 考 |
2 けずられる大地 ・地層や地層に含まる化石に関心を持ち、進んで調べようとする。 ・地層をつくる岩石や含まれる化石を手がかりに、地層の堆積環境や生成年代を総合的に推定することができる。 ・野外観察などの基本的な観察方法を身につけ、観察結果をまとめることができる。 ・地層のつくりや代表的な化石を基に大地の変化について理解することができる。 | 1 岩石はどのようにけずられるか(5) | ・資料集 ・VTR |
・地層とはどのようなものか確認する。 ・どんなところで地層が見られるか発表し合い、交流する。 ・地層はどのようにしてできたのか考え、 意見を発表し合う。 |
・大雨が降った後のグランドの状態を思い起こす。 ・流水のはたらきについてまとめる。 風化、侵食、運搬、堆積作用 | ・資料集 ・写真 |
・近くの豊平川について思い起こす。 ・水の流れ、石の大きさ、形について考える。 | ・転石調査資料、 ・写真 |
・豊平川の傾斜の特徴について地形図より読み取る。 | ・豊平川傾斜 |
・流水によってできる地形について知る。 | ・扇状地再現実験 |
2 地層はどのようにしてできるか(2) |
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・地層の広がりについて把握する。 ・露頭観察の手順について知る。 | ・資料集 ・VTR ・ボーリングデー タ |
・流水の働きによって地層ができたことを理解する。 |
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3 堆積岩にはどんな特徴があるか(2) | ・堆積岩標本 |
・堆積岩の観察をする。 ・堆積岩を構成する粒について知る。 |
・化石について知る。 ・堆積岩ができた環境について推察する。 | ・化石標本 ・写真 |
1 活動する大地 ・火山や地震に伴う現象や災害に関心をもち、進んで調べようとする。 ・火山の形や噴火活動の様子などはマグマの性質と関係することをとらえたり、地震のゆれの伝わり方の規則性について考察することができる。 ・標本などを観察し観測データの処理の仕方を身につけ、図やグラフにより結果を表現することができる。 ・火山及び地震についての基本事項を理解し、説明することができる。 | 2 火をふく大地(5) | ・写真 ・新聞記事 ・インターネット |
・日本各地(北海道)の活動的な火山の例をあげる。 ・火山災害や恩恵について知る。 |
・火山噴出物の観察をする。 | ・標本 ・軽石の水質浄化実験 |
・火山灰の観察をする。 | ・火山灰の観察 |
・火山にはいくつかのタイプ(形)があることを知る。 | ・資料集 ・VTR ・モデル実験 |
・火山岩と深成岩のちがいについて理解する。 ・安山岩と花崗岩の観察をし、つくりの違いを知る。 | ・標本 ・岩石薄片の観察 ・岩石溶融実験 |
1 ゆれ動く大地(3) | ・資料集 ・新聞記事 ・VTR |
・地震による災害や体験を交流し、それらについて知る。 |
・地震の特徴をまとめる。 | ・震度分布図作成 ・等発震時曲線作 成 ・地震波伝播実験 |
・地震がおきる原因について考察する。 | ・VTR ・断層モデル実験 ・褶曲モデル実験 |
単元のまとめ ・野外観察を通して地層の大きさや多様性を理解することができる。 ・学習した知識や野外観察を通して、地史について考察し発表することができる。 | 野外観察事前指導(1) | ・事前指導資料 |
・野外観察での課題意識をもつ。 |
百松沢での野外観察(4) | ・野外観察の手引き |
・石英の粒を観察する。 ・地層のスケッチをする。 ・堆積環境を推定する。 ・地層の上下関係を観察する。 |
野外観察のまとめ(2) | ・コンピュータの活用 |
・野外観察のまとめをして発表する。 |
単元のまとめと評価(1) | ・コンピュータの活用 |
・札幌の地質や地史についてまとめる。 |
表中の網掛け部分は、研修Ⅱにおいて独自に検討した実験、観察を示している。
■ 野外観察について
(1) 目的
① 「大地の変化」のまとめとして、露頭観察を行い、地層の大きさや多様性などを実感させながら、教科書学習した内容と実際の地質の事物や現象とを結び付ける。 ② 野外観察の結果をまとめることにより、地層が堆積した当時の環境を探り、現在の土地ができるまでの地史を推定する。 ③ 安全に関する意識を育てる。 |
(2) 当日の流れ
8:30 学校集合、集会
8:45 バス乗車、出発
9:30 藻岩山頂上到着 札幌の地形の観察 トイレタイム
10:15 藻岩山頂上出発
11:00 百松沢林道到着
11:05 班ごとに観察開始
12:30 バス乗車 (車内にて昼食)
13:30 学校到着
13:40 まとめの時間
14:25 帰りの学活、下校
(3) 観察ポイント、課題
露頭Ⅰ 石英の粒を観察する! ……… 風化が著しい石英班岩
・石英の粒を探す。
・風化の様子を観察する。
・岩石が風化し、砂になってゆく過程を観察する。
露頭Ⅱ 地層のスケッチをしよう! ……… 凝灰岩・砂岩の互層
・地層のスケッチをする。
・なぜ地層が傾いているか考える。
・地層を作っている粒の観察をする。
露頭Ⅲ 地層がどこまで続くか予想しよう! ……… 泥岩・砂岩互層
・堆積岩の粒の観察をする。
・地層がどこまで続くか予想する。
・地層はどのようにしてできたか(堆積環境)を推定する。
露頭Ⅳ 違う種類の岩石が接している部分を探そう!
……… 泥岩・砂岩互層と安山岩質ハイアロクラスタイトとの断層関係
・安山岩を観察する。
・泥岩と砂岩の互層と安山岩の地層はどういう関係で接しているかを考える。
(4) 留意事項
・ 班ごとに行動させる。
・ 林道入り口に到着後、クラスごとに別々の露頭から観察をスタートさせる。
・ それぞれの露頭では、上記の課題を中心に観察させる。
・ 持ち物:筆記用具、野外観察の手引き、必要に応じて、帽子、軍手、防虫スプレー、サンプル袋、岩石ハンマー
(5) 教師側の体制
・ 事前の下見、打ち合わせを行い、緊急時の対応なども検討しておく。
・ 主要な観察露頭を4か所にし、案内表示板で明示する。
・ 指導体制:1学年教師6名、および他学年理科教師2名、養護教諭1名、管理職 1名
・ 理科教師3名は、露頭の近くに待機し、生徒の活動を観察、助言、援助する。露頭Ⅰと露頭Ⅱは近接しているので1名の理科教師が担当する。
・ 他の教師は、危険防止のための巡回指導にあたる。トランシーバーで状況を確認しながら指導に当たる。
・ 事故等に備え、現地本部を置き、緊急時の対応に備える。
■ 参考文献
地学団体研究会札幌支部(1977):札幌の自然を歩く、北海道大学図書刊行会
地学団体研究会札幌支部(1984):札幌の自然を歩く(第2版)、北海道大学図書刊行会
土居繁雄(1953a):5万分の一地質図幅説明書 定山渓 北海道地下資源調査所
土居ほか(1956):5万分の一地質図幅説明書 石山 北海道地下資源調査所
北海道教育庁生涯学習部小中・特殊教育課 平成11年度:中学校教育課程編成の手引き
文部省 平成10年12月:中学校学習指導要領 解説−総則編−
文部省 平成11年9月:中学校学習指導要領 解説−理科編−
日本の地質「北海道地方」編集委員会(1990):日本の地質1、北海道地方、共立出版株式会社
小山内ほか(1956):5万分の一地質図幅説明書 札幌 北海道地下資源調査所
札幌市教育委員会 平成11年12月:札幌市中学校教育課程編成の手引き
多摩川研究グループ(1999):川原の石の調べ方、地学ハンドブックシリーズ11、地学団体研究会